公開: 2024年3月22日
更新: 2024年7月28日
1970年代、米国社会では、大学教育における成績と、実社会での専門家としての評価に、直接的な関係が見られないことが問題視されました。つまり、大学での専門家としての基礎知識習得時の知識の理解度の評価と、社会に出てから、大学で学んだ知識を応用して、自分が解決しなければならない問題を見極め、その問題を解決するための実践的能力との間には、直接的な関係がないことが問題だと、言われるようになったのです。これは、大学を卒業して、専門家として生きてゆこうとしている人材を、大学の教育で実施している試験のような方法で、知識を評価しても、有効ではないことを意味していました。
この問題を研究し始めた米国の研究者たちは、実践の現場で「有能である」と言われている人々に密着して、「実践の現場では何が重視されているのか」、有能だと言われている人々は、「どのように育てられたのか」などについて、詳細な分析を行いました。その結果、実践的な場面で重要なことは、「自分の社会的使命を認識していること」、「その使命を達成するために、今、自分が何をすべきかを考えられること」、「自分がなすべきことを達成するために、どう行動すべきかを考える力があること」などが、重要であることを見出しました。これらは、知識ではなく、「自分が何をすべきかを考える力」に関係しています。
研究者たちは、このような「実践の現場で必要になる力」をコンピテンシーと名付けました。これは、医師であれば、知識としての患者の「病気の特徴に関する知識」、「病気の原因についての知識」、「病気を治療する方法に関する知識」などの、医学的知識と、実際の治療の現場で重要な、「患者の病気を治療しようとする意欲」、「患者の容体の変化に注目する観察力」、「患者に対して、病の原因と、治療法を説明し、その効果などについて説得し、患者の病気からの快復を信じさせるコミュニケーション能力」などの、臨床医としての実践能力との違いです。この実践能力をコンピテンシーと呼んでいます。
これに対して、現実の問題解決の場面で、「現象から問題の原因を突き止めるための方法」、「問題の原因を取り除き、問題を解決するために実施する活動の過程を計画・管理する方法」、そして「問題の解決活動が実施された後に、その活動が成功したかどうかを確認する方法」などを、しっかりと実践できる力を、スキルと呼びます。スキルは、大学などの専門教育で学ぶことができます。しかし、コンピテンシーは、大学などの専門教育で教えることが難しい問題です。コンピテンシーは、専門教育以前に、個人の倫理観として、植え付けられていなければならない問題です。医師の例で言えば、医師の家庭に育った人が、医師としての自覚を持って、仕事をする態度の形成がされていることがあげられます。